【FPが切り込む】基礎控除アップの「事実」と、見過ごせない「本音」

今回は、最近ニュースなどで耳にする機会が増えた「基礎控除の引き上げ」について、まず「何がどう変わるのか」という事実を整理し、その上でFPとして感じる「正直な意見や懸念」をストレートにお話ししたいと思います。良い話だけじゃない、税制の本質に切り込んでいきます。
まずはここ!税制改正の「事実」
今回の税制改正で、私たちの所得税にどのような変更があるのか。財務省が公開している説明資料をごらんください。これ、わかります??

資料に基づいた主なポイントは以下の通りです。
- 基礎控除額の引き上げ: 所得税の基礎控除額が、これまでの48万円から58万円に引き上げられます 。これは、所得の種類にかかわらず、納税者全員に適用される非課税枠です。
- 給与所得控除最低保障額の引き上げ: 会社員などが受けられる給与所得控除の最低保障額が、55万円から65万円に引き上げられます 。
- 課税最低限の引き上げ: 基礎控除と給与所得控除の引き上げにより、所得税がかかり始める「課税最低限」の水準が、103万円から123万円に引き上げられます 。
- 基礎控除の「上乗せ特例」の創設: 物価上昇への対応として、基礎控除にさらに金額が上乗せされる特例が設けられます 。この上乗せ額は給与収入に応じて段階的に設定されており、以下のようになっています:
- 給与収入200万円以下の場合: 基礎控除に加え37万円上乗せ(恒久措置)
- 給与収入200万円超~475万円以下の場合: 30万円上乗せ(令和7年・8年の2年間の時限措置)
- 給与収入475万円超~665万円以下の場合: 10万円上乗せ(令和7年・8年の2年間の時限措置)
- 給与収入665万円超~850万円以下の場合: 5万円上乗せ(令和7年・8年の2年間の時限措置)
- 税負担の軽減効果: これらの改正により、単身世帯の場合、対象となる多くの収入階層で年間2万円~4万円程度の税負担が軽減される見込みです 。納税者の8割強(約4,600万人)がこの特例の対象になるとされています 。
- 「103万円の壁」への影響: 給与所得控除と基礎控除の合計が123万円になるため、所得税に関しては「103万円の壁」が「123万円の壁」に引き上げられる形になります 。これにより、パートタイム労働者などの就業調整インセンティブの緩和が期待されています 。
- 住民税への波及: 所得税の基礎控除・給与所得控除の引き上げは、個人住民税にも波及し、地方自治体の税収減が見込まれています.
これが、今回の税制改正の主な事実です。手取りが増える可能性がある、というのは確かに多くの人にとって朗報でしょう。
FPが感じている「本音」と「懸念」
さて、ここからはFPとして、この改正について率直に感じていることをお話しします。事実だけでは見えてこない、制度の「本質」に関わる部分です。
正直に言って、今回の税制改正は「わかりにくい」と感じています。
なぜ、こんなにも複雑な制度設計にしたのでしょうか?
- 複雑すぎる「上乗せ特例」の基準: 給与収入によって細かく上乗せ額が分かれているため、自分がどのくらいの上乗せを受けられるのか、正確に把握するのが簡単ではありません。
- 多くの部分が「時限措置」であること: 上乗せ特例の大部分が2年間限定というのは、場当たり的な対応に見えてしまいます。2年後にこの特例がなくなれば、また税負担が増えるのか?という不安が拭えません。恒久的な物価高対策としては、疑問が残ります。
- 税金と社会保険の「壁」問題: 所得税の「103万円の壁」は事実上引き上げられますが、「130万円の壁」や「106万円の壁」といった社会保険の適用に関する壁は今回の税制改正では直接見直されていません 。税金と社会保険は手取りに大きく影響しますが、それぞれがバラバラに改正されるため、「結局いくらまで働くと手取りが一番多いの?」という、働く人が本当に知りたい情報が、より分かりにくくなってしまいました。これは、働く意欲にも影響しかねない問題です。
- 公平性への疑問: 控除額の引き上げは、所得が高い人ほど減税額が大きくなる「逆進性」を持つ側面もあります 。今回の改正では所得に応じた上乗せで配慮しているとはいえ、制度全体の公平性については議論の余地があると感じます 。
私たちFPは、お客様のライフプランや資産形成のサポートをしていますが、税制が複雑であればあるほど、正確なシミュレーションやアドバイスが難しくなります。そして何より、納税者である皆さんが、自分の家計や将来について考える上での大きな障壁となります。
税制改正は、国民生活や経済の状況に合わせて行われるべきですが、そのプロセスや結果が国民に分かりやすく、納得感のあるものであることが非常に重要です。今回の改正は、その点において課題が多いと言わざるを得ません。政治的な駆け引きの末に、国民が理解しにくい複雑な制度が生まれてしまったのではないか、という懸念も抱いています 。
この複雑さの中で、私たちができること
では、このような複雑な税制の中で、私たちはどうすれば良いのでしょうか?
- 「なんとなく」をやめる: 自分の収入に対してどれくらい税金がかかっているのか、今回の改正でどう変わるのか、まずは「知る」努力をしましょう。年末調整の時期などに送られてくる書類をしっかり確認するだけでも違います。
- 手取りの増減を把握し、使い道を考える: もし手取りが増えるなら、そのお金をどう使うか具体的に考えましょう。一時的なものかもしれないと意識し、将来のための貯蓄や投資に回すことも検討する価値は十分にあります。
- 税金だけでなく社会保険もセットで理解する: 特にパートなどで働く方は、所得税の壁だけでなく、社会保険の壁が手取りに大きく影響することを理解しておきましょう。
- プロの力を借りることを恐れない: 税金や社会保険、そしてそれらを総合したライフプランニングは非常に専門的です。自分で調べるのが難しかったり、正確な判断に迷う場合は、税理士や私たちFPのような専門家に相談することを強くお勧めします。
まとめ
今回の基礎控除引き上げを含む税制改正は、一部で税負担が軽減されるというメリットがある一方で、その制度の複雑さや、社会保険との連携不足など、多くの課題を抱えています。
FPとして、私はシンプルで分かりやすい税制こそが、国民一人ひとりが主体的に家計管理を行い、将来設計を立てるための基盤だと考えています。今回の改正を機に、ご自身の税金や社会保険について学び、複雑な制度に振り回されない賢いお金の管理を目指しましょう。
ご自身の状況を正確に把握し、将来のために最善の選択をする。そのためのお手伝いをするのが私たちの仕事です。いつでもお気軽にご相談ください。


